柴田礼子のオルフ留学日記

      崖っぷちに立たされた時


私と台湾人のチン・ヤンとブルガリア人の組み合わせで、起こった出来事とは、ある音楽の授業の中で起きた事だった・・・。大体が、その3人の組み合わせは、奇妙というか、ヘンというか・・・

まん丸いかわいい犬を思わせるような顔をしていた学校の先生チン・ヤンと、顔中髭だらけのちょっと見ると怖い感じの打楽器奏者マリンと、この飛び抜けて小さい私・・・それもマリンは身長2mとえらく大きい・・・。

こんな私達が与えられた課題は、クラス全員で作ったノンセンス語を使って、グループでパフォーマンスを作るというもの・・・。

マリンもチンヤンも能力はある人なのだけれど、この二人が組むと、大抵おふざけになるというか、真面目にやらないというか・・・とにかくまともに考えない人達と組み合わされてしまった私は、もうその時点で、暗くなってしまった。

案の定、彼らは、何か適当にやろうという感じで、自分達二人が音を担当するから、レイコが踊るか何か動きを入れてよ・・・という事で、全ての打ち合わせは終わってしまった。

大体が真面目な性格?(少なくても当時)の私は、それだけで何でちゃんとやらないの?と怒っていたし、まだまだ言葉の理解度が低かった私は、それだけでもオドオドしていた訳で、もう何が何だかパニくってしまったという感じだった。

私の気持ちなどお構いなしに、彼らは適当に遊んでいるし、私はといえば、どうしよう・・・どうしようと思うばかりで、何もアイディアなど出て来ないし、時間はどんどん過ぎるし、唯一できた事といえば、一つ楽器を持とうと思って、側にあったカスタネットを持ったという事だけだった。

そして発表・・・もう、絶対絶命という感じで、とにかくカスタネットを持って、音に合わせて私は踊り出した。すっと前に出る瞬間に、手に持っていたカスタネットが、フラメンコのカスタネットになったような感じがして、自分の中のイメージとしては、フラメンコのダンサーになったような感じで、踊り出したのだった。

終わってみると、みんなのブラボーブラボー!と、アンコールアンコール!の声・・・一体何が起きたのかわからなかった。どうやら、崖っぷちに立たされた私が、訳もわからずやった事が、何かをみんなに伝える事になったようだった。

やった本人が一番びっくり・・・。でも、そのアンコールに応えてやった時には、もう何も出てこなかった・・・。これは、たまたまいろいろな事が重なり合って、可能になった事だったのかもしれない・・。

でも、飛ぶ事を知らない鳥が、崖で誰かに押されて落ちていく中で、自分が飛べる事を知った時にように、ある極限の中で生まれる何か、そこに出てくる内面のエネルギーのような物は、あるのかもしれないとこの時初めて感じた・・。

でも、一回飛べた事で、飛ぶという事を習得した鳥とは違って、この私が飛べたのは?この一回だけで、その後はまた苦悩の日々が続くのであった・・・。

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