柴田礼子のオルフ留学日記
価値観が崩れた日



 今から20年前,私は初めて、ヨーロッパに出掛けた・・・・。オーストリアはウィーン近郊のバーデンという田舎町に身をおいても、なんだか自分がそこにいるという実感が持てず、ただ戸惑うばかりだった。
 そんな、まだ学生でふらふらしていた私が訪ねた先はザルツブルグにあるオルフ研究所だった。そこに、私をびっくりさせる事が待っていた・・・・。
 オルフ研究所の夏季講習会のあるクラスでのこと・・・・
 世界中から集まった参加者が受けている音楽アンサンブルで見たものは、私のそれまでの価値観を覆すのに十分だった。当時の私はドイツ語がまったくわからず、ただちょこんと座って見学していただけだったのだがだからこそ余計に先生や参加者の様子を五感をフル回転させてうけとることができたのかもしれない。まず、先生や目上の人の前では常にお行儀よくしなくてはいけないと育てられた私は先生の話しをあぐらをかいたり寝そべって聞いたりする人がいてびっくり・・・・。そしてよく聞いていると先生のことをファーストネームで呼び捨てにしている。よく見ていると音楽の授業のはずなのに運動みたいなことをしている。更によく見ると、スカートなのに、そんな格好して「あなた、パンツ丸見えよ!」と言いたくなる状態・・・・。
 そんな様子なのに、みんな真剣に先生の言うことに耳を傾け、質問もどんどんしている。そんな状態なのに、先生にちゃんと敬意払っている。先生が言ったことを吸収しながらちゃんと自分の表現をしている・・・・。
 そう言う先生と生徒の関係があるのだということに出会った私は、もう目からうろこ状態・・・。長年、先生が言うことは絶対という従属関係のなかで育ってきた私は、その人間と人間が向かい合っている姿を見た途端にボロボロ崩れていったような気がする。そしてそこから立ち上がった瞬間に「じぶんもこういう場所に身を置きたい!」そう思った。
 ただそれだけだった。それから私の旅は始まったのである・・・・。

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